アラ還原付日記(仮)

カブに乗ったらこうだった! 制限時速30kmで考えるアラ還からの生活。文学フリマ東京に出品する『アラ還原付日記(仮)』の試し読みブログです。

episode 004-1 原付免許は取れるのか。 ~納車まで937日[前編]

★アラ還原付日記(仮)その1「崖っぷちペーパー原付ライダー、スーパーカブに乗る」の一部をご紹介しています★

 

北の大地バイク旅の白昼夢を見た2016年。
明けて2017年、こけつまろびつ執筆を続けてきた原稿もゴールが見えてきた。
機は熟した。
いよいよ原付免許取得に向けて具体的アクションを起こす時だ。

マークシートは塗れるのか

まず参考書を買った。本屋さんの棚から何冊か見比べて、『一発で合格! 原付免許合格問題集』(長信一/新星出版社)というのを買った。
参考書のほか、スマホアプリの標識クイズとか、日本二輪車普及安全協会のサイトにあるネット模擬試験「ゲンチャレ」なども利用して学習に取り組んだ。

いや、覚えられないもんですね……!
「ゲンチャレ」なんて実際の試験より数段やさしく、全然勉強にならないって噂なのに、それすら合格点に届かない。
原付試験の合格点は、50点満点中45点。つまり9割正解で合格できる。8割くらいまでは、常識で何とかカバーできる感じ。でもあとの1割は、やはり正確な知識がないと答えられない。その1割が果てしなく遠い。

「まず原付免許が取れるかどうか。それによって普通免許を目指すかどうか考える」
そう決めた時は、正直、原付試験にまるで歯が立たないとまでは想定していなかった。何だかんだいってもしょせん紙の上の試験、結局何とかなるだろうと、心の底ではたかをくくっていたのである。
しかし、ありうる。ありうるぞ、原付すら取れずに終わる可能性。それどころか、ズルズルと受けずじまいに終わる可能性も無視できなくなってきた。もうわかったよ、原付は無理だよ、ましてや普通免許の勉強なんてとてもやる気がせんよという最もクズな理由で。

そういう場合は先に住民票と申請用写真を用意してしまうのだ。どちらも6ヵ月以内のものと定められているので、どんなに遅くともそれまでには受けなきゃという気分になる。
さらには、よしっ明日だ! 明日行こう! と思い立った時にすぐ決行できる。
(※コロナ以降は、予約制になっていて、そうはいかないかもしれない)

盲点はマークシートだ。マークシートの試験を受けたことがないので、うまく塗れるか自信がない。というかその前に、鉛筆がない。手書きの習慣がまだ残っていた頃の、古びた短いものが1、2本あるだけだ。
急きょコンビニへ買いに走り、8本用意した。塗り方は、息子の英検問題集からコピーしたマークシート解答用紙で練習した。

そして思い立った。明日だ!

ゆとりと偏差値世代の原付試験

2月28日。運転免許試験場は立錐の余地もなかった。
受付開始時刻の午前8時30分よりだいぶ早めに着いたのに、証紙販売窓口はすでに長蛇の列。申請書を書く場所もなくて人の背中を借りたいくらい。
我が神奈川は人口(900万ちょい)のわりに試験場が1ヵ所しかなく、しかも、この時はまだ建て替え前の旧施設だったので、まぁ、混むだろうという話ではあるのだが。
そっかー。学生さん春休みか。そりゃみんな免許取りに来ますわな。

そのわりに原付免許の受付窓口は空いていた。試験室に集まったのも50人くらい。原付試験はその一室だけだったと思う。
普通免許を取れば原付(50cc)も運転できるんだから、わざわざ原付免許だけ取りに来る層というのはだいぶ限られているはずだ。
おもな顔ぶれは、息子(当時高2)と同じか、何ならもっと幼い感じの男子たち。なるほど、普通免許はまだ取れない層ね。
それか、20~30代くらいの女性。若いんだから普通免許取っちゃえばいいのにっていうのは大きなお世話で、二輪に乗りたいんだろうな。
するとやっぱり自分が最年長か。というと案外そうでもなく、同世代かそれ以上と思われる中高年男性の姿も少数ながら見受けられたので何となく安心する。

ちなみに試験室の前の机には鉛筆がたくさん置かれていた。何に使うのだろうと思ったら貸出用で、男子たちが軒並み借りに行っていた。
えぇーー。試験を受けようというのに鉛筆持ってこないのか君たちは。ゆとりかっっ。と思ったら最年長と思しきロマンスグレーのジェントルマンも借りていた。
8本も持ってきた自分が落ちるわけにはいかない。

試験時間は30分。15分たったら提出可。しかし案の定マークシートが難儀で、「15分経過」の声がかかった時点ではまだまだ最後まで手が回らない。
若い衆はどんどん提出して立ち去っていく。
まもなく私もひととおり終わったが、「時間いっぱい見直せ」と調教されている偏差値世代はあんなに潔く提出できない。さりとて、考えすぎていじり回した結果かえって間違えるというのもよくある話。
懊悩の末、自信のないところもすべてそのままにして、3分前に提出する。

自信のないところは6問あった。発表までの待ち時間に参考書を見て、2問は確実に正解していることを確認した。
残る4問をすべて落としても46点で合格。でも、ほかにも気づいてない間違いがあったらちょっと厳しい。う~む。う~むう~む。
1時間余り唸っていると、結果発表のアナウンスが聞こえてきた。
電光掲示板に自分の受験番号があったら合格だ。

あった。
鉛筆8本削った甲斐があった。

記念画像だ! と、思わずスマホを取り出した。
が、そんなことをしている人は誰もいなかった。息子より幼い面立ちの男子たちでさえもだ。
あ、このタイミングで急にメールチェックしてみたくなっただけです、みたいな顔をしてそそくさとしまう。恥ずかしいぞ偏差値世代。

かくて原付試験は後半戦、実技と座学の講習へと舞台を移す。

(後編につづく)