アラ還原付日記(仮)

カブに乗ったらこうだった! 制限時速30kmで考えるアラ還からの生活。文学フリマ東京に出品する『アラ還原付日記(仮)』の試し読みブログです。

episode 024 信号が消えた道の向こうに ~納車326日

★アラ還原付日記(仮)その1「崖っぷちペーパー原付ライダー、スーパーカブに乗る」の一部をご紹介しています★

 

2020年8月13日(木)
雷雨が止むのを待って買い出しに出かけたら、交番前の交差点の信号が真っ暗! 落雷の影響? なのに前を行く車はどんどん進む。みんな何を見て進んでいるの?! と思ったらおまわりさんが数人がかりで交通整理をしていた。

信号が働いているのは当たり前じゃなかった

消えた信号を見るのは初めてではない。
東日本大震災の時はうちのほう(神奈川)でも消えた。けど、当時は自分が運転するわけではなかったので、歩行者として道を渡る時だけ気をつければよかった。
何といっても、あれだけ揺れれば信号くらい消えてもしょうがない。次々と報じられる被災地の衝撃的な被害状況を思えば、家も道路も無事な町で信号だけ消えたところで、それほどまでに大変なこととは思えなかった。
逆にいえば、あんなことでもなければ信号なんてそうそう消えるもんじゃないと思っていたのだ。

それが、カミナリで消えるとは。
しかもそこへ原付に乗った自分が通りかかる日が来ようとは。

「かもしれない運転」というのはあるが、次の交差点では信号が消えているかもしれない、なんて考えたこともなかったし、当然、心の準備もない。
矢印信号とかむずかしくて先頭になっちゃうとドキドキするよね、と思ったことはあっても、信号が消えていてドキドキするのは初めてだ。

おまわりさんが来てくれていたから助かったようなものの、これ、おまわりさんが来るまではどうしていたのだろう。
交番のそばだからすぐ対応できたのかな? それにしたって多少の時間差はあったはず。

そんなことを思いながら先へ進んだら、次の信号も消えていて、おまわりさんがいた。
いったいどこまで消えてるの? おまわりさんの手信号を見誤って、止まるべき時に進んでしまったりしたら速攻捕まるのだろうか。不安。

3つめの信号はやっと正常に働いていた。
やれやれ助かった。赤、黄、青なら見誤りようがない。信号によって並び順が違うわけでもなし。実によくできてる。信号って偉大。

原付運転心得之條

にしても、よく大惨事にならなかったな。
ドライバーの人みんな偉い。一歩間違えば死傷者が出るばかりか全方位に渋滞が起き、うしろのほうからじゃ何があったのかわからないまま延々と車列が伸びて収拾がつかなくなる、なんて事態も招きかねなかった。

そういえばラジオを聴いていると、道路交通情報でよく「事故渋滞」と言っている。そういうことは日々至るところで起きているのだろう。原因が突然の信号ダウンかどうかの違いだけで。

原付なら、最悪、エンジンを切って押し歩けば歩道を通ってでも離脱できる。
けど大きいバイクは押し歩くのも難儀だろうし、車は乗ったまま何とかなるのを待つしかない。さすが、免許を取るまでに何十時間もの教習を受けるだけのことはある。それだけ原付には計り知れない大変な乗り物を運転してるんだ。

ペーパーテストだけで、1日で免許が取れてしまう原付は、その分何倍も何十倍も、謙虚に慎重に乗らなきゃいけないのだと思う。

消えた信号の向こうへ

実はミドリに乗り始めてわりと早い段階で、小型二輪免許を取りに行こうかな、と思ったのだ。
小型二輪免許があれば、125ccまでのバイク(原付二種)に乗ることができる。
よくいわれるように、50cc以下(原付一種)では時速30kmと二段階右折の制約がつらいというのもある。けどそれ以上に、いっぺんきちんと教習を受けなきゃどうにもならないのでは、と感じたからでもあった。

ちなみに、小型二輪免許を取るにあたり、普通免許を持っていれば教習が短縮されるが、原付免許があっても何も免除されない。およそ運転免許と名のつくものを初めて取る人と同じスタートラインだ。それくらい、原付免許だけ持ってたって何も知らないし何もできないのだ。

普通免許を取るかどうかで迷った時は、結局ヤーメタとなった。そのことを後悔もしていない。もともとなくて済んでいたものが、今もこれからも必要ないだけのこと。
でも、原付にはすでに乗ってしまっている。「免許なし」からみた「普通免許」に比べて、「原付免許」からみた「小型二輪免許」は、少なくとも気持ち的にははるかに近い、リアリティのある目標だ。

だがしかし、もし取れたとしてどうする。スーパーカブ110とかC125、あるいはクロスカブ110に乗り換えるの?
いや、乗ってみたいよ、乗れたらいいなとは思うけど。

ミドリを手放すことは考えられない。

長くはないことが初めから決まっている自分の原付ライフ、最後までミドリとすごすつもりなら、上位の免許は必要ない。実際に使う気もない免許取得に本気になれるものだろうか。

とつおいつ思案に暮れるうち、新型コロナの流行が始まり、緊急事態宣言とともに自動車教習所も臨時休校。
その後も、「密」を避ける移動手段として二輪がにわかに注目され、入校に待ちが出たり、教習予約も奪い合いになったりしているらしい。
ですよね、通勤とか死活問題だし……これはとても不要不急の私が参戦できる状況じゃない……。
この件は保留だ、保留。
そしてそれはいつまでのことかわからない。

なんかね、もう、コロナを境にすべてが、消えた信号の向こうへ行っちゃった感じ。
ひまわりはまた咲くのか。
お笑いライブは見られるのか。
自由に好きなところへツーリングに出かけられるのか。
キャンプスポットで淹れたてのコーヒーを飲めるのか。
スタンプラリーには行かれるのか。
またみんなで集まれるのか――

信号の消えた道を乗って行くのだ。
時々、エンジンを切って押し歩いてみたりしながら、それでも進むのだ。
制限時速30kmで。

納車からもうすぐ1年。