アラ還原付日記(仮)

カブに乗ったらこうだった! 制限時速30kmで考えるアラ還からの生活。文学フリマ東京に出品する『アラ還原付日記(仮)』の試し読みブログです。

episode 020 緊急事態宣言 2020年4月 ~納車217日

★アラ還原付日記(仮)その1「崖っぷちペーパー原付ライダー、スーパーカブに乗る」の一部をご紹介しています★

 

2020年4月26日(日)
終日籠城。最低限の買い物のほかは書店もだめ映画館もだめ百均もだめ日帰り温泉もだめ……と思うとなんかもう籠城してるだけで疲れる。

インドア派の真実

新型コロナウイルス対策のため、我が神奈川を含む7都府県で発出された緊急事態宣言は、16日、全国に拡大された。
生活の維持に必要な場合を除く外出の自粛、感染の防止に必要な協力、学校の休校、多くの人が集まる施設の使用制限などがその眼目である。

外出を控えると褒められる日が来るとはね。

大丈夫、まかして。
私は家にいるのが大好きだ。
こんなことで自分の身が守れるなら、そして、少しでも世の中のお役に立てるなら、いくらでも閉じこもるよ。

……のはずが。
自分がインドア派(または出不精)だなんて、もしかして壮大な錯覚だったんじゃ。
籠城生活が長引くにつれ、しきりにそんな気がしてきたのだ。

「家にいる」とは、いつでも、どこにでも、自由に「出かける」という選択肢があって初めて楽しめること。
私だって、けっこう出かけてたじゃない? 本屋さんや映画館のほかにも、美術展とか。3月3日から国立西洋美術館で始まるはずだった、ロンドン・ナショナル・ギャラリー展にも行くつもりだったんだ。延期になっちゃったけど。
あと、ほら、スタンプラリー。最後に行ったのは2月末、「横浜線・相模線重ね捺しスタンプラリー」(JR東日本)だった。重ね捺しのスタンプってきれいなんだ。1駅ずつ捺していくとだんだん図柄が現れて……って、本当に出かけるの嫌いだったら行かないでしょ普通。

出版社や作家団体のパーティにも、年に1、2度は足を運んだ。特に、息子が小さくて手がかかった頃は、何日も前からリビングのカレンダーに印をつけて自由行動日を確保、夫に留守を託してるんるんと出かけましたっけ。あちこち寄り道しながら行くのも楽しかった。うん、楽しかった。だからこそ家でもがんばれたんだ。

まだ息子が生まれてなかった頃、夫とよく野球を見に行ったのも楽しかった。
家族旅行も楽しかった。
遠くへ行くだけが能じゃない。近間の日帰り温泉も楽しかった。露天風呂っていうのも、あれ、一種のアウトドアじゃないですかね? 気持ちいいですよね。

何のことはない、楽しかったことって出かけたことばっかりじゃないの。

コロナの町をカブで行く

最低限の買い物以外、どこも行くところがないとなると、残された楽しみは「ミドリで最低限の買い物に行く」くらいですかね。
実際問題、なるべく外出を減らすには、1度の買い物で大量の食料品日用品を持ち帰らねばならない。買い物というより買い出しといったほうがふさわしい。
籠城生活ではとりわけ米とトイレットペーパーが怖ろしい勢いで減る。自転車の前カゴに載せて坂道を上ったり下りたりするのは電チャリでも厳しい。車を持たない我が家で最強の乗り物、ミドリの力が必要だ。

緊急事態宣言下の町は、普段に比べて車は少ない印象だが、自転車やバイクは増えているようだ。まぁ、そうですよね。自分がそうだし。
あと、ジョギングしてる人。ですよね。ジムだって閉まってるし、ほかに運動する場所がない。
走っている人は普通の歩行者より動きが速く、急に車道に下りてきたり道を渡ろうとしたりするので要注意であることを学習する。

ガソリンスタンドに寄ったら計量機に使い捨てポリ手袋が備え付けてあった。

スーパーはごった返していた。こりゃーレジは長蛇の列だなと思うと案外そうでもない。スーパーしか開いてないならスーパーへ、と、家族で、友達同士で気晴らしに来る人が多いのでは。
役所やメディアの「買い物は可」という表現が悪い、「買い物は代表者が1人で」と呼びかけなきゃ、という意見をTwitterで目にしたことがある。なるほど、「買い物は可」というと「買い物では感染しない」と保証された気になってしまう。
しかし現実には子どもを置いて出られない家庭もあるし、家族が多ければ多いほど荷物も1人じゃ持ちきれない。買い物は1人でっていうのも、それはそれで机上の空論なのではと思う。

リアボックスに限界まで荷物を詰め込み、リュックもぱんぱんにして帰途へ。
重い。怖い。けどもう自転車には戻れない。頼むよミドリ。

メロディホーンが聞こえる

やがて買い出しだけではもの足りなくなった。1人で、黙ってミドリに乗る分には、どこへ出かけたっていいのでは、と思えてきた。

考えることは皆同じで、湘南海岸など県の内外からクルマが続々とやってきて大変なことになっているらしい。
海までドライブとかならオッケーでしょ? ったってそこに集中すれば同じことですわな。

なら、宮ヶ瀬なんかどうだ。うちのほうじゃ小学校の遠足でもよく行く宮ヶ瀬ダム、ツーリングの定番としても知られていて、そのうち行ってみたいと思ってたんですよね。
だがしかし、ここもクルマとバイクで(以下同文)。
いや、もう、この状況で「どこなら出かけられるか」という料簡が間違ってますわ。いいよ、諦めるよ。ここで諦めがつくのが真のインドア派だよ。

そんなある日、郵便局へ行かねばならない用事ができた。
ミドリで行った。
コロナ対策で窓口にはビニールカーテン。
そして、一両日中にすべての局で取扱時間が短縮される、と。

なんかもう、どんどん足もとが崩れていくような……。

帰り道、近くの駅をロマンスカーがメロディホーンを鳴らしながら走り去っていった。
新宿と、小田原や箱根湯本、江の島をつなぐ小田急ロマンスカー。きっとお客さんもほとんど乗ってないと思う。それでも走ってるんだ。
あそこに幸せがある。そう思ってちょっとだけ泣いた。