アラ還原付日記(仮)

カブに乗ったらこうだった! 制限時速30kmで考えるアラ還からの生活。文学フリマ東京に出品する『アラ還原付日記(仮)』の試し読みブログです。

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はじめに言っておきたい。
このブログ、「アラ還原付日記(仮)」は、アラ還の方に原付ライフをおすすめするものではない。

若い頃に乗っていた人ならいいかもしれない。昔取った杵柄的な。体が覚えてるとか、勘を取り戻すとか、あるんじゃないかと思う。
私は「若い頃に乗っていた人」じゃないのでよくわからない。
けど「アラ還で初めて乗った人」ではあるので、断言できる。

もう徹夜はできない。
近くがますます見えづらい。
あちこちの関節がいつも何となく痛い。
固有名詞が出てこない。
昔のことならよく覚えているつもりだったのに、最近はそれすら怪しい。
そんなになってから初めて乗ってみようなんて絶対にすすめられない。
ましてや免許を取るのも初めてなんて。それも、教習所でしごかれることなく1日で取れる原付免許のみなんて。もうね、もう、知らんぞー、としか。

長い年月、運転免許を持っていなくても、私は全然困らなかった。
交通の便の良い都市部に生まれ育ち、どこへ行くにも10分と待たずに電車やバスが来る、何なら徒歩、せいぜい自転車でほぼすべての用が足りてしまう、そんな恩恵を当たり前のように受けてきたから、バイクも車もいらなかったのだ。

夫も同様のバックグラウンドで、運転免許は持っていない。なので、うちに車はない。
子どもが小さい時だけ、車さえあればどんなに楽だろうかと切実に思った時期はあるが、何とかしのいで乗り切ってしまうと、やがて忘れた。

東日本大震災の時は、私の住む神奈川も多少は揺れた。停電もしたし、スーパーには行列もできたし、やっと入場できても棚という棚はすっからかん、なんてこともあった。しかし飢えることも凍えることもなく、1週間もするとお店には潤沢な商品が戻り始めた。
誰かが運んできてくれたからだ。誰も運んでくれなければ、自分で作るか、誰かが作ってくれたものを自分で運ぶしかない。今日の今日までそれをしないで済んできただけだ。

ラッキーだった。
免許なんかなくたってちっとも困らないも~ん、と朗らかに言い切るのはおそれを知らぬこと。本当は、ただただ運が良かっただけなのだ。

そんな幸運をみすみす手放して。
公共の安全を損ない、自分ばかりか人さまの幸せまで壊しかねないリスクを背負い込み。
「アラ還から楽しむ原付ライフのススメ」みたいなブログを嬉しそうに書き始めたりしたら犯罪だ。
「アラ還原付日記」というタイトルに「仮」と付けたのも自戒のためだ。「乗らなきゃよかった」という結末に終わり、更新が永遠に途絶えるのは明日かもしれない。

このブログには、もう少し違ったことを書くつもりだ。たとえば、そう、制限時速30kmの原付に乗って考える、おばさんひとりアラ還からの生き方、とか。

休むに似たりだったらその時はごめんなさい。

 

※同じ内容を note にて同時進行予定です。
ご都合のよいほうでお読みください。
https://note.com/a_o_nuts