アラ還原付日記(仮)

カブに乗ったらこうだった! 制限時速30kmで考えるアラ還からの生活。文学フリマ東京に出品する『アラ還原付日記(仮)』の試し読みブログです。

episode 005 祭り再び? 3年目のペーパー原付ライダー ~納車まで61日

★アラ還原付日記(仮)その1「崖っぷちペーパー原付ライダー、スーパーカブに乗る」の一部をご紹介しています★

 

2019年7月。
運転免許証の更新連絡書が来た。

そうかそうか。もうそんな時期か。
そりゃ更新しなくちゃね!

無敵の原付免許

原付免許を取って2年5ヵ月。
原付を運転することは一度もなかった。
買って乗らないのはもちろん、借りてすら乗っていない。乗りたいなぁと思ったことも、ほぼ、ない。
ペーパードライバーの二輪バージョンをペーパーライダーというそうだ。ペーパー原付ライダーというのもアリなら、私もそれだ。祭りは終わったのだ。

しかし免許証は大活躍だった。
本人確認書類として、運転免許証がこれほど絶大な威力を持つとは知らなかった。
だいたいのことは健康保険証で間に合うとはいえ、難渋するのは顔写真付きの何かを求められた場合。該当するものがなければ、健康保険証プラス公共料金領収書など補助書類が必要になったり。何が有効で何は無効かいちいち調べるのもめんどくさいし揃えるのもめんどくさい。これでいいかこれじゃダメかと交渉するのもわずらわしい。書類が増えるほどに余計なプライバシーを開陳しなきゃならないのもなんかいやだ。

それが、運転免許証なら!!
補助書類など何一つ求められることなく一発で通るのだ。「本人確認できるものを……」と、相手が言い終わらないうちに運転免許証を出せば済んでしまうのだ。若い頃から持っている人には普通のことかもしれないが、50代半ばにして初めて持った私には、まるで魔法のカード、三つ葉葵の紋所みたいなものだった。

特にありがたみが身にしみたのは、TOEICを受けた時。
英検に代わる新たな目標として息子が受け始めたので、どんなものか私も知りたいと思い、何度か受けに行ったのだが。
これ、顔写真付きの本人確認書類がなければ「受験できません」と明記されてるのね。就職や昇進のためならともかく、単なる趣味の受験にすぎない私は、運転免許証を持っていなければ「あ、ダメだ」と諦めてそれっきりだったと思う。

趣味のTOEICなんて受けられなくても失うものは特にない。だが逆にいえばそれは、無敵の本人確認書類なしには趣味さえ楽しめないご時世ということだ。
私はまだ経験がないけど、顔写真付き身分証がなければ入場できないライブ、イベントなどもあると聞く。
この先ますます手放せなくなりそうな運転免許証。
間違っても失効させたりしないよう、おさおさ怠りなく更新しなくては。

更新期間は誕生日を中心に前後2ヵ月の幅があった。
さて、いつ行こうかな。

と、手帳を広げて、ふと思った。

こうして何年かに1度、更新するだけで終わるのかな。
身分証として重宝するだけで終わるのかな。
私の原付免許は。

ペーパー原付ライダーの崖っぷち白書

免許を取ってからの2年5ヵ月の間に、息子は高校生から大学生になっていた。
夫は定年退職し、再就職した。
私はこけつまろびつ書いてきた13作目の小説をようやく刊行にこぎつけた。

本はすがすがしいほど売れなかった。
次作発表のあてはなかった。

介護問題は新局面を迎えた。半年ばかりの間、そのために奔走した。一人っ子の私には、分担できる人も交替できる人もいなかった。一連の騒動がようやく落ち着いた時、文筆の道はますます遠のいていた。

あれー?
おかしいなぁ……?
いつの日か子育てから解放されて、執筆活動に全振りするのが夢、だったのに。

そんなさなかに舞い込んだ、免許更新のお知らせだったのだ。

本当に更新するだけで満足? 本人確認書類として使えれば十分?
北の大地バイク旅を一度は妄想したのだって嘘じゃなかったよね。乗ってみたい、という気持ちもなくはなかったんだよね……?

人はそれぞれ、いろんな制約のもとに生きている。能力だったり、環境だったり、タイミングだったり。思いどおりにいかないこともそりゃあるだろう。
そこへいくと、原付に乗る、なんて、わりと簡単に実行できることだと思いますけどね?
免許はある。あとは「乗る」と決めるかどうかなんだから。

折しも消費税増税が迫っていた。
3パーセント、5パーセント、8パーセントと上がってきたものが、2019年秋、ついに10パーセントになるそうだ。
原付ってどれくらいするの? 10万? 15万?
8パーセントと10パーセントじゃずいぶん違ってこない?

最後は金の話で恐縮だが、その瞬間、祭りは再開したのだ。